大判例

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東京高等裁判所 昭和38年(う)738号 判決

被告人 山木俊助

〔抄 録〕

所論は、本件公示札二本には仮処分の目的物たる土地の表示としてそれぞれその地番及び宅地坪数三坪又は四坪半の記載があるのみであつて、しかも右公示札は仮処分の土地からはるかに離れた場所に立てられているのであるから仮処分の目的たる土地の所在が債務者たる被告人にすら判然しないから本件差押の標示は無効であるというのである。

仍て検討するのに原判決挙示の証拠を綜合すれば、本件仮処分決定は、債権者野村秀三郎の申請に基づき被告人を債務者とし昭和三五年一一月八日付を以て東京地方裁判所によつてなされたこと、その内容は、「(一)東京都中野区江古田一丁目一八〇番地所在木造瓦葺平家建一棟建坪約三三坪五合五勺の内(1)北側四畳半室押入共三坪(2)玄関土間一坪半(二)同所同番地木造トタン葺平家建物置一棟建坪約四坪半、(三)右(二)の建物の敷地約四坪半、(四)右(一)の建物の内釜場物置湯殿部分の敷地三坪、(五)右(一)の建物のうち南側八畳室床の間床脇縁側及び押入共の敷地六坪六合七勺につき債務者の占有を解いて東京地方裁判所執行吏にその保管を命ずる。執行吏は現状を変更しないことを条件として債務者にその使用を許さなければならない。但しこの場合執行吏はその保管に係ることを公示するため適当な方法をとるべく、債務者はこの占有を他人に移転し、または占有名義を変更してはならない。」というものであり、その目的物件の所在を別図によつて明示していること。同年一一月九日右仮処分決定執行のため同裁判所執行吏代理菅原康久が右土地の現場に臨み債権者等立会の下に目的物件を確認の上執行手続を行つたこと。その公示の方法として公示札三本を作成しこれにそれぞれ公示書と題し執行吏代理菅原康久の名義を以て「左記表示の土地は仮処分命令に基き債務者の占有を解いて執行吏の保管中であるからいかなる人も執行吏の許可を受けずにこれを占拠してはならない云々」なる同文の文言を記載し土地の表示としてはそれぞれ東京都中野区江古田一丁目一八〇番地宅地三坪、又は四坪半、六坪六合七勺と記載し、うち三坪の分と四坪半の分とを二本まとめて右(二)の四坪半の物置の取壊跡の空地に立てたこと。右の三坪及び四坪半の土地の部分については土地上にこれを判別すべき繩張など何等の境界線の標識を施さなかつたことが認められる。(右六坪六合七勺の分は本件公訴事実と無関係であるから論外とする。)そこでかような公示の方法が刑法第九六条にいう「差押の標示」として有効なものであるか否かを按ずるのにそもそも仮処分決定において執行吏に対し適当な方法により差押の公示をすることを命じたのは、差押の目的物件につき差押を執行した事実を明確にすることによつて一般の取引の安全を保持し第三者に不測の損害を蒙らしめることを防止するの目的に出でたものであるから、公示に当つてはまず差押の目的物件を明確にし、何人が見ても直ちに差押物件を識別し得るよう標示することを相当とすることはいうまでもない。すなわち、土地が目的物件である場合には、その地番、地目、坪数、一筆の土地のうちの一部であるならば特にその部位、境界線を明確に表示するのを相当とするものというべきである。しかるに本件においては、目的物件の所在する中野区江古田一丁目一八〇番地の宅地は総坪数約一三八坪あるのであつて前示公示書表示の如く同番地宅地三坪又は四坪半と記載するのみでは右約一三八坪の内どの部分が仮処分の目的物件にあたるかを識別し得ないのみならず、右公示札は前叙のとおり三坪の分と四坪半の分とを二本まとめて前記四坪半の物置取壊跡の空地上に立てられているので公示札を立てた場所によつて目的物件の位置を明認することも不可能であり、しかも、右三坪又は四坪半の土地上にもこれが仮処分の目的物件たることを示すべき境界線の標識も全く設けられていないのである。しからばかくの如き公示書は本件仮処分の目的物件に対する差押の標示として妥当なものとはいい難いのであるが、右の公示書記載の土地は、地番、地目坪数が記載されていて一応その目的物並びにその所在の範囲が限定されており、公示書を立てた場所も四坪半の分はその土地の上に立てられ、右三坪の分は右四坪半の土地の上に立てられているものの右三坪の土地と四坪半の土地とは極めて近接しているのである。(原審検証調書及び図面参照)しかして右公示書には年月日及び執行吏の名義が記載されている外債務名義たる仮処分決定の裁判所名事件の年度記号番号も示されているなど目的の土地範囲の明確を欠く点以外は形式の完備したものと認められるので、これによつて第三者に対して取引上不測の損害を与うる危険は一応防止されているものと認められるのである。しからば、本件公示書に仮処分の目的物件表示の明確を欠く瑕疵のあることは公示方法として妥当なものでないとはいえ、これによつて本件仮処分の執行が無効となるものではなく、又右公示書が本件仮処分の差押の標示として無効なものということはできない。論旨は理由がない。

(長谷川 関 小林信)

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